機長の危機管理読了
考えさせられるところの多い本だ。
中間管理職向け読本というところか。
20世紀末における麗しき危機管理の参考書だ。
様々な切り口を見せているけど、いくつかの前提に立っている。
危機管理は人間が行う。
最終決定は人間が行う。
人間は自律すべきだ。
20世紀には、それは正しかった。
機械は、定型的なことしかできず、人間が定めた通りにしか機能しなかった。
かなり複雑なことを、マルチにこなせるようになってはいたけど、全ての判断をゆだねることは出来なかった。
技術が未熟で、想定外の事には対応できなかったし、なにより、よく故障した。
最後は、人間が出ていくしかないが、巨大化、複雑化したシステム全てを、人間だけで管理することは、もはや不可能になっていた。
その危機感が、この本を書かせたのだと、浮沈子は考えている。
これは、人間の未来を信じる人々によって書かれた、人間のための本だ。
日本人の文化的な側面に関する記述は、ちょっと辟易するところがあるけど、20年前だからな。
浮沈子にも、思い当たる節はある。
人間がコックピットに座っている限り、この本は正しい。
情緒不安定で、誤った行動や判断を頻発するやっかいな存在だが、それに依存しなければ、21世紀の飛行機はまだ飛ばないのだ。
浮沈子が棲息する東京都には、ゆりかもめという無人電車(?)が20年以上前から走っている。
(ゆりかもめ東京臨海新交通臨海線)
[URL]
「ATO による無人自動運転を実施しており、全駅に東京メトロ南北線や金沢シーサイドライン等と同じタイプのホームドアを設置している。運行中は車内に運転士や車掌がいないため、車内での緊急時などには車内備え付けのインターホンで対応することになる。なお、早朝・深夜時間帯やATOの機能障害などの非常時に備えて行われる手動運転訓練時などには自動運転ではなく運転士が乗務しワンマン運転を行っている。」
まあ、あれは、各階止まりのエレベーターのようなもんだからな(運転士は、エレベーター・ボーイ?)。
管制室では、人間が監視してるしな。
自動車は、そろそろハンドルやアクセルが消えてなくなる。
(ハンドルない車も公道走行 国交省、自動運転車の実験推進へ)
[URL]
「国土交通省は9日、ハンドルやブレーキペダルがない自動運転車が公道を走行できるよう道路運送車両法に基づく保安基準を改正した。」
「年内にも速度制限や緊急停止ボタンなど使用者に求める安全対策の具体的な内容を詰め、実証実験を促す。」
それでも、最終的な危機管理は人間が行うわけだ。
緊急停止した後の操作は、どうすんだろうな?(遠隔操作か、レッカー移動?)。
まあいい。
本書の読みどころは、そういう全自動化の前の話。
人間と機械との調和を、如何にして図るか、危機管理=機器管理という話だ。
いや、そうじゃない。
危機管理は、自律した人間の育成に尽きるという話だ。
自ら考え、学習し、自律性を高めていく存在。
筆者らは、その1点で一致している。
人間の脳や心理、特性、具体的なパイロットの話は、機長という人間像を浮き彫りにするための仕掛けだ。
20世紀は科学の時代だったが、21世紀は人間の時代になることを期待して、本書は結ばれている。
浮沈子は、20年の時を経て、いささか異なる感想を持っている。
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